【書評】中国経済講義 冷静に中国経済を捉える事の難しさ

中国経済に関する本を探していたら、新たな新書が出版されていたので、紹介しておきたいと思います。梶谷懐氏の著作「中国経済講義―統計の信頼性から成長のゆくえまで」です。以前に書いた「中国のGDPを推計したい」という記事へのヒントが登場してきました。

構成

章立ては以下の通り

  • 序章 中国の経済統計は信頼できるか
  • 第1章 金融リスクを乗り越えられるか
  • 第2章 不動産バブルを止められるのか
  • 第3章 経済格差のゆくえ
  • 第4章 農民工はどこへ行くのか
  • 第5章 国有企業改革のゆくえ
  • 第6章 共産党体制での成長は持続可能かー制度とイノベーション
  • 終章 国際社会のなかの中国と日中経済関係

注目点① 中国統計の信頼性

以前の記事でも書いた通り、第1章では中国が発表する経済統計の信憑性がトピックとなっています。GDP統計に疑義が挟まれるようになったのは、中国のGDP集計方法がマルクス主義に立脚したソビエト方式(MPS)から国際標準のSNAに移行してからとのこと。それまで地方の統計局からの自己申告を集計して中小企業のデータを作っていたが、虚偽報告があった為、サンプル調査に変更した為、非連続性が発生するようになった。まぁ、中国の経済統計を完全に信頼することは出来ないというのは概ね意見の一致するところなので、注目したいのはどうやってGDPを推計するのかという点。GDPの代替推計方法は二種類の方法があると著者。①より実態を反映していると思われる指標を組み合わせて推計する手法②デフレータ算出やサービス部門の推計等数字、怪しい部分を独自の仮定で推計をやり直すという手法

①の代表例として例の李克強が挙げられるが、他にもCAP指標(china activity proxy)や人工衛星の夜景の光量データから消費活動データを推計する方法等があるとのこと。特にこのCAP指標は以前に書いた「新『李克強指数』を見つけたい」という記事への一つの解答であるので、是非詳細を書きたいと思います。

①の手法も②の手法も、いずれも先進国の様に産業構造や労働生産性等に大きな変化が無い状態を念頭に置いている為、長期間のGDP推計にはかなり歪みが生じる模様。やはりある程度の揺れ幅(レンジ)があることを念頭に置いて中国経済を捉えるしかないようです。

【新『李克強指数』を見つけたい】GDP発表を先取りする方法を考える

注目点② 中国の経済格差

よく日本では「中国では貧富の格差が拡大している」という論調があるが、必ずしも最近のトレンドを現していないとのこと。近年まで中国政府は貧富の格差を現す代表的な指標「ジニ係数」を公表してこなかったが、2013年に政府は初めて発表。確かに80年代から2000年代後半まではジニ係数は上昇を続けてきたものの、2008年以降は下降トレンド。その背景には、農民の所得向上や非熟練工の減少があるとのこと。農村部における所得の増加率は都市部の市民の所得増加率を上回っているとのことで、ジニ係数の下降を裏付けています。

貧富の差の是正が進んでいるからといって社会の安定に直結はしないと考えられます。(この辺からは同書から離れて、完全に自分の意見ですが)中国の貧富の差を再度拡大しかねない要素として①AIの導入②米国との貿易摩擦が考えられます。

①AIの導入

AIの導入が中国社会に与える影響については、これだけで一冊本が書けると思うのですが、ネットで検索してみてもあまり深堀されていないテーマです(一方で「中国のAI開発は進んでいるが、日本は出遅れ」という論調の記事は沢山ありますが)。AIによって人間の判断を代替するというメリットを最大限享受出来るのは、労働力が少なく人件費が高い労働環境のはず。つまり北欧の国々や日本・韓国等の先進国と言えるでしょう。中国は(上海や北京等を除けば)まだ先進国水準には到底達しておらず、安い労働力を動員出来ることが強みだったはず。それを遥かに通り過ごして自動運転技術や製造業の自動化が進めば、失業者が発生することが予想されます。代替される労働力は教育程度の低い非熟練工が多いと想定されるので、AI導入を国策として進める以上、失業者に対して手厚い補償や教育を施さなければ社会の不安定要素になってしまうことでしょう。

②米国との貿易摩擦

これまで中国経済を牽引してきた広東デルタ地帯等の輸出産業は米国との貿易摩擦の影響を受けて停滞している為、一見沿岸部と内陸部の格差縮小につながっていると思われますが、沿岸部の非熟練労働人口は内陸部からの出稼ぎが多いので雇用調整の際には真っ先に出稼ぎ労働者が調整弁となってしまう可能性があります。労働問題での不満は共産党政府への不満に直結し、社会の不安定要素となるだけに、今後の中国の失業率(特に広東省等)に注目していきたいと思います。ただ、②は①と違い短期的な影響に留まる可能性もありますが…。

本著書の特徴

この著書の特徴を挙げるとすると、中国経済崩壊論と中国経済脅威論のどちらにも与せず、あくまで経済学者の観点から書いていることでしょう。知的財産権等の制度を欠いた状況であるにも関わらず、深センなどで活発なイノベーションが生まれつつある理由も中々興味深く拝読しました。中国株をやっている方は是非ご一読下さい。

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