日本銀行「経済・物価情勢の展望 2018年7月」を読む

先日日本銀行が発表した「経済・物価情勢の展望 」(資料1)

三か月に一度発表されているものですが、日本経済の先行きを見通すにあたっては押さえておきたいところ。金融政策決定会合でオーソライズを取った、日銀の公式見解。これまで読む機会が無かったのですが、初めて通読してみました。補足資料も含めて52ページ。サクッと読み切りました(その割には更新が遅いですが…)。

構成は?

構成は以下の通りになります。

基本的見解

1.わが国の経済・物価の現状

2.わが国の経済・物価の中心的な見通し

(1)経済の中心的な見通し(2)物価の中心的な見通し

①物価上昇に時間を要している背景 ②物価上昇率が高まるメカニズム

3.経済・物価のリスク要因

(1)経済のリスク要因 (2)物価のリスク要因

4.金融政策運営

《上記基本的見解の背景説明》

1.1.景気動向

1.2.主要支出項目の動向と背景

政府支出、海外経済、輸出入、対外収支、鉱工業生産、企業収益、設備投資、雇用・所得環境、家計支出

2.物価の現状と見通し

物価の現状 物価を取り巻く環境 物価の先行き

3.わが国の金融情勢

金融環境 金融市場動向

トピックス

①最近の労働供給の増加と賃金動向 ②家計の値上げに対する許容度 ③企業の慎重な価格設定スタンス ④企業による生産性向上に向けた最近の取り組み ⑤競争激化と部門ショック ⑥公共料金と家賃の動向 ⑦予想物価上昇率の「適合的な期待形成」メカニズム

要旨は?

  • GDP:2018年は着実な成長、2019年から20年にかけては設備投資の調整や消費税率引上げ等によって成長ペースは鈍化するも、成長は続く
  • 物価:消費者物価は、景気の拡大や労働需給に比べると弱めの動き。日銀が進めてきた2%の物価上昇の達成は後ずれ。理由は①企業の賃金設定スタンスが慎重、②家計の値上げへの許容度が高まっていない、③企業の価格設定スタンスが慎重、④競争環境の激化等がある。
  • 今後のリスク:日本経済全体では①海外経済の動向、②消費税率引き上げ影響、③企業や家計の中長期的な成長期待等が挙げられる。物価に関しては①企業や家計の予想物価上昇率の動向、②マクロ需給ギャップに対する価格感応度が低い品目の存在、③為替や商品市況の動向等が挙げられる。

注目点は?

色々な経済統計を駆使して日本経済の概況を説明してくる中々参考になる報告書ですが、注目したい点は3つあります。

  • 物価上昇が経済や雇用状態の改善に比べて鈍い理由:デフレを前提にした考え方や慣行が残っていることー激しい競争に晒された企業が(商品価格への転嫁ではなく)経費削減や人員削減等の「自社努力」で対応してきたという長いデフレ時代の経験から、出来るだけ価格への転嫁を行わないというデフレマインドが企業で強い。同じ様に家計でも、一円でも安い商品を購入しようという生活防衛的な消費行動が見られます(テレビのニュースやバラエティー番組でも見れば一目瞭然でしょう)。

 

  • マクロ需給ギャップに対する価格感応度が低い品目:家賃や公共料金ーこの2項目だけで消費者物価指数(除食料・エネルギー)の5割弱を占め、全体の動向に大きな影響があります。公共料金は補助金の投入等もあり、物価変動の影響が発現しにくい特徴。また家賃についても、家賃改定は頻繁にある訳ではないし、空き家比率が過去最高水準に達していること等から、上昇しにくい環境があると言えそうです。

 

  • 人手不足が深刻になり、パート労働者の賃金は上昇基調を続けているものの、正規雇用者の給与は伸び悩みー①女性や高齢者の労働市場への傘下、②企業のデジタルへの投資等による生産性向上=省力化、③低成長下での雇用調整の経験のある正規雇用者が賃金引上げよりも雇用の安定を優先するというマインド等が背景として挙げられています。①は団塊世代が70代に達しつつあることから今後一段落しそうですが、②と③は影響が長く続きそう。②についてはトピック「企業による生産性向上に向けた最近の取り組み」として紹介されていますが、小売や宿泊・飲食サービス、建設といった人手不足が特に顕著な業界でソフトウェア投資額が全産業平均を大きく上回るペースで増えていることが示されています。個人的には③が日本経済の大きなネックだと思料。安倍首相が経団連に3%の賃上げを求めた(資料2)のにも納得がいきます。本来賃上げは連合等の労働組合が担うものですが、労働組合組織率が低下の一途を辿っている現状では、「官製春闘」が最も効果的かも知れません。

まとめ

改めてまとめてみて感じましたが、正社員の給与動向って消費者マインド、引いては日本経済に大きな影響を与えます。今後は厚生労働省の勤労統計等の統計にも注目していきたいと思います。

あと当レポートの中で少しだけ触れてありましたが、Amazon等のネット通販が物価に与える影響についても気になります。一見マイナスに作用する様な気もしますが、経済全体全体で俯瞰すれば新たな産業・雇用の創出にもつながりそう。

次回のレポートは10月31日発表予定、機会があれば紹介(可能であれば即日)したいと思います。

 

《参考資料》

資料1 日本銀行「経済・物価情勢の展望 2018年7月」

https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1807b.pdf

資料2 首相官邸HP「日本経済団体連合会審議員会」

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201712/26keidanren.html

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