【書評】インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実

上場企業の紹介ばかりしていましたが、たまにはDVDの感想でも書いてみます。今回紹介するのは、チャールズ・ファーガソン監督の「インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実」。2010年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門受賞作品です。もうすぐリーマンショックから10年が経とうとしているので、ご紹介してみようと思います。

テーマは?

なぜ2008年の経済危機が起きて(リーマンブラザーズそのものの破綻には余りフォーカスは当たっていない)、どこに責任があり、これから先どうするべきかというのがメインテーマ。

ちなみに構成は以下の様になっています。

①How we got here(ここまでの道のり) ②The Bubble (バブル)③The Crisis(危機) ④Accountability(説明責任) ⑤Where we are now(私たちの現在)

本DVDの特徴は?

このドキュメンタリーの特徴を幾つか挙げてみようと思います。

1.大物へのインタビュー

ジョージ・ソロス(国際的に著名な投機家、グラス・スティーガル法を原油タンカーの隔壁に例えたのは秀逸な表現)やドミニク・ストロス=カーン(元IMF専務理事)、クリスティーヌ・カラルド(現IMF専務理事)、リー・シェンロン(シンガポール首相)、ポール・ボルカー(元FRB議長)等がインタビューで登場。ただ、それに比べると投資銀行の内部の人間の証言は少ない(まぁ、仕方ないかもしれないが…)

2.金融機関、政治家、格付け会社の責任だけでなく、学術界の責任も問うている点 

アメリカの学術界は”Revolving Door”と言われる程、政権との距離が近く、政権関係者と学者が行き来するのはよく言われていることですが、そうした仕組みの欠点が如実に表れています。例えばFRB理事で2008年のリーマン破綻直前に危機が迫っていることを知っていたにも関わらず、「敵前逃亡」し退任したミシュキン氏。退任理由が「教科書を作る為」とのこと。経済学や経営学の学者はアカデミック⇔政権⇔金融界の三角関係をグルグルと回遊していることがよく分かります。アメリカのビジネススクールは世界中のビジネス界で非常に高く評価されていますが、この映画を見ると学者の意見も所謂「ポジショントーク」に過ぎず、評価の見直しが必要だと気づかされます。

3.投資銀行業界の異常な慣習を描き出した点

ウォール街近くで高級売春事業を営む経営者の女性が登場。1時間最低1,000ドルもかかるコストを払う上得意客の内、40%~50%が金融関係者。しかも、コンピュータ修理やコンプライアンス調査という名目で領収書を切り、会社経費で落とす。しかも、ドラッグも投資銀行関係者に蔓延しているとのこと。MITのアンドリュー・ロー教授のインタビューでは、ギャンブルに刺激される脳の箇所がコカインによって刺激される箇所と同じと述べているが、そうした研究結果も頷ける。

最後に

このDVDを見て思いますが、ゴールドマンサックスが政権に与える影響の大きさと策士っぷりに驚かされます。並み居る投資銀行の中でも頭抜けている気がします。CDOという様々なジャンク(クズ)債をかき集めたごった煮みたいなものを売っておきながら、それらの債権(ゴールドマンが保有していないにも関わらず)が支払い不能になることを予想してAIGとCDS(クレジット・デフォルト・スワップ:信用リスクに対する保険商品)を220億ドルも結んでいた。さらにこれだけの支払いを求められると今度はAIGが支払い不能になることも予想して、ゴールドマンはAIG破綻に対して保証する保険を掛けていたとのこと。結局AIGは国有化されましたが、その恩恵を最も大きく受けたのはゴールドマンサックスでした。

映画の最後に「闘う価値はある」とのメッセージがあるが、何が言いたいのかイマイチ伝わらない。投資銀行業務自体は社会にとって必要であることを認めた上で、巨額報酬の制度への制限や投資銀行の取引制限を主張するのが責任ある態度ではないかと感じました。

もっと知りたい人は?

「リーマン・ショック・コンフィデンシャル」という本をご紹介します。特に、ギリギリの交渉の結果、三菱東京UFJ銀行がモルガン・スタンレーを救済することが決まり、90億ドルの小切手を持参するところのエピソードは秀逸です。このDVDとは違い、投資銀行内部の関係者の苦悩を中心に描いています。アメリカの金融業界に興味がある方は是非是非ご一読を。

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